電波天文学入門

電波とは? ― 光の向こう側

この宇宙にあるものは、すべてその表面温度に対応した電磁波を出しています。つまり、この宇宙にあるほとんどの天体は電磁波を出している、ということです。もちろん、あなたの体も体温に対応した電磁波を出しています。

赤外線カメラで写すと、暗い所でも映像として映し出されるのを見たことがあるかもしれません。これは人間の体が出す熱に対応した電磁波を捉えています。あるいは、レントゲン写真のようにX線で人の体を見るとX線が皮膚を通り抜け、骨がよく見えます。

このように同じものを見ても観測する波長によって見えるものがまったく違います。宇宙には数億度という超高温の現象から、絶対零度に近いような超低温の現象まであり、それぞれさまざまな波長の電磁波を出しています。私たちの目では捉えることのできない電磁波で宇宙を観測することで、宇宙の現象をより深く知ることができます。

電磁波の中で、波長が約100マイクロメートルよりも長いものを電波と呼びます。電波天文学では、この電波をとらえることで宇宙のいろいろな天体の姿を調べるのです。

何が見えるの? ― 電波の得意分野

低温のガス
宇宙空間に漂う物質は「星間物質」と呼ばれ、星や惑星の材料となります。星間物質はガスと塵から構成され、絶対温度10度(-260℃)という低温の物質もあります。ガスに含まれるさまざまな原子や分子は、それぞれ特有の波長で電波を出す(分子輝線、原子輝線)ため、望遠鏡でとらえた電波を分光すると、電波源に含まれる原子・分子の種類を調べることができます。またその輝線の強度から密度、温度などを推定することができます。また電波のドップラー効果を使って、ガスの動きを調べることもできます。

低温の塵
星間物質に含まれる塵は、その温度に応じて広い波長帯で電磁波を放射します(連続波)。絶対温度数十~数百度という低温の星間物質からは可視光は放射されず、赤外線から電波の波長が放射のピークになります。このため、低温の星間物質の分布を描き出すには塵が放つ電波を観測することが重要です。複数の波長で観測し、塵の温度や性質を調べることもできます。連続波の観測には多くの画素を持つ電波カメラが使われ、非常に広範囲を掃天観測して天体の分布を明らかにする観測も行われています。

高温のガス
太陽、誕生したばかりの大質量星の周辺、ブラックホールから放出されるジェットなど、高温のガスからも電波が放射されます。こうした高温のガスでは磁力線と電気を帯びた粒子(荷電粒子)、あるいは荷電粒子どうしが相互作用することによって強い電波が放射されます。磁力線を回る荷電粒子から放射される電波をシンクロトロン放射といい、磁場の研究に重要な役割を果たします。また荷電粒子が相互作用する場合には自由-自由放射(制動放射)と呼ばれる電波が放射されます。こうした電波は、比較的波長の長いセンチ波・メートル波となります。

メーザー
メーザー(英語: maser)とは、レーザーと同じ原理で放射される非常に強く位相のそろった電波のことです。巨大な原始星から噴き出すガスの中や、年老いた星の周り、またブラックホールを取り巻く降着円盤の中など、特定の条件がそろった場所でだけ生じます。メーザーを放射する分子としては、OHやメタノール(CH3OH)、一酸化ケイ素(SiO)、水(H2O)等があります。メーザーの位置と非常に精密に測定することで、VERAは銀河系の地図を描こうとしています。

宇宙マイクロ波背景放射
宇宙のあらゆる方向からやってくる電波を、宇宙マイクロ波背景放射と呼びます。その強さもほぼ同じことから、「宇宙は一点から始まって膨張した」というビッグバン理論の強力な観測的証拠と考えられています。宇宙マイクロ波背景放射のわずかな強度揺らぎのパターンを詳細に調べることで、宇宙年齢の推定や宇宙膨張の様子を調べることができます。