電波天文学入門

宇宙のさまざまな天体からやってくる電波をとらえ、詳しく調べることで、光の観測だけではわからないいろいろな宇宙の謎に挑むことができます。

銀河の誕生と進化の謎


さまざまな衝突銀河におけるガスの分布。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/SMA/CARMA/
IRAM/J. Ueda et al./Wilson et al./Hunt et al./
Jutte et al.

私たちの住む太陽系は、1000億の星と星間物質の大集団である「天の川銀河」の一員です。銀河は数千億個も存在していると考えられていますが、138億年前のビッグバンの後いつどのようにして誕生したのかは、謎に包まれています。

ビッグバン直後、宇宙は水素とヘリウムで満たされていました。水素原子は波長21cmの電波を放出するため、宇宙初期を調べるには電波天文学が欠かせません。そして宇宙の中で最初の星が誕生し、そして短い寿命を終えて死んでいくとき、星の内部で合成された重元素が宇宙空間にばら撒かれます。炭素や窒素といった原子、また一酸化炭素など単純な構造の分子が放つ電波は、宇宙初期の星の誕生と死がどのようなペースで進んだかを探る重要な手掛かりになります。

宇宙の歴史の中で、銀河は衝突を繰り返して成長してきました。銀河衝突の際には星間物質が圧縮されて星形成が活性化され、またそれぞれの銀河の中心部にあったブラックホールも合体すると考えられています。星形成領域やブラックホール周囲のガスを観測することが可能な電波天文学は、銀河の進化の謎に迫る重要な手段です。

星と惑星の誕生の謎


アルマ望遠鏡が観測した、おうし座HL星を
取り巻く原始惑星系円盤。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

星や惑星は、宇宙に漂うガスや塵(星間物質)の雲の中で誕生します。こうした雲はマイナス260℃という非常に低温で光を出さず、またその雲の中の星からの光も吸収してしまうため、真っ暗に見えます。これを「暗黒星雲」と呼びます。しかしこうした低温のガスや塵からも電波は放射されており、また電波は星間物質に遮られにくい性質があるため、暗黒星雲の中を覗くには最適です。

この暗黒星雲の中で、物質が重力によって集まっていき、密度が高くなった場所で星が生まれます。また生まれたての星の周囲にはガスや塵の円盤(原始惑星系円盤)が作られ、この中で惑星が誕生します。ガスや塵の質量や動きを測定することで、そこでどんな星や惑星が誕生するかを調べることができます。生まれたばかりの星はどのように成長しどのように成長を止めるのか、連星系はどのようにして生まれるのかなど、星・惑星形成にまつわる未解明の謎は多く存在しています。

近年では、太陽以外の星の周りをまわる惑星(太陽系外惑星)が数多く発見されています。また太陽系外惑星には多様性があることもわかっており、その多様性の原因を探るためにも、惑星誕生の様子を詳しく調べることは重要です。

生命誕生の謎

星や惑星の誕生だけでなく、その上での生命の誕生可能性という壮大な謎にも、電波天文学で迫ることができます。

私たちの体はタンパク質でできており、タンパク質はアミノ酸をもとに作られます。アミノ酸は、地球の外にも存在するのでしょうか?実は地球に落ちてきた隕石の研究や、彗星の尾の物質のサンプルリターンによって、太陽系内には地球の外にもアミノ酸が存在することが確認されています。では、太陽系の外にもアミノ酸は存在するのでしょうか?これはまだ解明されていない謎です。アミノ酸やその原料となる有機分子が放つ特定の周波数の電波を観測することで、宇宙における生命の起源やその可能性について迫ることができます。すでにさまざまな種類の有機分子が星間雲や原始惑星系円盤の中で発見されています。有機分子があれば必ず生命が生まれるというわけではありませんが、生命誕生の舞台が整っているか、その材料はどれくらい普遍的に存在するか、という疑問に答えることが電波天文学で可能になるでしょう。

宇宙磁場の謎


ねじれた磁力線の影響で形作られた「豚のしっぽ」
分子雲の想像図

宇宙には、いたるところに磁場が存在しています。星や惑星が誕生する現場、星の表面、活動的なブラックホールの周囲にも磁場があり、さまざまな現象や構造の原因になっています。このため、宇宙の構造と進化を調べるためには磁場の理解が欠かせません。電波天文学では、大きく分けて2つの方法で宇宙磁場に迫っています。

ひとつめは、「偏波」を観測することです。電波は波の性質を持っており、その波の振動方向の偏りを偏波と呼びます。偏波は、その電波を出すもとになった物質の運動や形状が偏っていることを示しており、その偏りの原因の一つが磁場です。例えば星間雲を磁場が存在するとき、星間雲の中の塵は磁力線に沿って整列します。こうした塵から放射される電波は、振動面に偏りが生じます。また磁力線に絡みつくように移動する荷電粒子から放射される電波(シンクロトロン放射)は、荷電粒子が運動する方向に沿った振動面を持つ電波を放射します。こうした電波を観測し、その偏波の強度を測ることで、磁力線の向きを測定することができるのです。

ふたつめは、ゼーマン効果を使うものです。さまざまな原子・分子は特有の波長で電波を出しますが(原子輝線・分子輝線)、強い磁場の中ではある種の分子から放射される輝線がふたつに分裂する現象が起きます。これをゼーマン効果と呼び、分裂した輝線の間隔から磁場の強度を求めることができます。

ブラックホールの謎


ジェットを噴き出すブラックホールの想像図
Credit: 国立天文台/AND You Inc.

謎に満ちた天体、ブラックホールも電波天文学の格好のターゲットです。

ブラックホールそのものは電波も吸い込んでしまうため直接観測することはできませんが、その周囲を回るガスが放つ電波をとらえることで、ブラックホールの性質に迫ることができます。また、銀河の中心に存在するブラックホールからは非常に速い速度でガスが放出されていることがあり、ジェットと呼ばれます。ジェットは時には100万光年を超えるほどの広がりを持ち、光速に近い速度で運動するものもあります。どのようにしてこれほど巨大なジェットが駆動されているのか、どのようにして光速近くまで加速されているのかといった謎が、現在も未解明のままです。偏波を調べることでブラックホール周囲とジェット内部の磁場構造を調べたり、電波干渉計による超高解像度観測でジェットの移動を精密に測定したりすることで、この謎に挑むことができます。

ブラックホールの直接撮像も、電波天文学の大きな目標です。理論的な予測によれば、非常に高い解像度の観測を行うことで明るく輝く降着円盤の中にブラックホールの「影」が見えるのではないかと期待されています。波長が短い電波(サブミリ波)を超長基線電波干渉法(VLBI)で観測することにより、ブラックホール直接撮像に必要な超高解像度を実現しようとしています。

宇宙誕生と膨張の謎


宇宙膨張のイメージ図
Credit: NASA/WMAP Science Team

私たちが暮らすこの宇宙がどのようにして生まれ、膨張してきたのか。非常にスケールの大きな謎にも、電波天文学は迫っています。

宇宙のどの方向からもほぼ同じ強さの電波がやってきていることが発見されたのは、1964年。「宇宙マイクロ波背景放射」と名付けられたこの電波は、ビッグバンの証拠として注目を浴び、現在も盛んに観測されています。宇宙マイクロ波背景放射は、宇宙誕生後わずか38万年後の姿を私たちに見せてくれており、これを調べることで宇宙の成り立ちを知ることができるのです。

宇宙マイクロ波背景放射の分布には、ごくわずかにゆらぎがあることがわかってきました。このゆらぎは宇宙誕生直後の物質の分布のムラを反映しています。初期宇宙で物質が多く集まっていた場所はみずからの重力によって周囲からさらに物質を寄せ集め、ゆらぎは成長していきました。これは銀河団が連なる「宇宙の大規模構造」の元になったと考えられており、また謎に満ちたダークマターの分布を探る手がかりでもあります。宇宙マイクロ波背景放射は人工衛星によって非常に精密に測定されるようになり、宇宙の年齢や宇宙全体における物質密度を求める重要な手掛かりになっています。

太陽の謎

私たちを日々照らしてくれる太陽の謎にも、電波天文学は挑んでいます。

太陽は、地球に最も近い星であり、その表面の様子をつぶさに観測することができる唯一の星でもあります。電波で太陽を観測することで、太陽表面の爆発現象「フレア」が発生している「彩層」や「コロナ下層」を観測することができます。太陽フレアは大量の粒子を放出し、地球の磁場と相互作用することでオーロラの原因となり、また人工衛星や地上送電線に悪影響を与えることもあります。フレアの発生から地球への影響を予測する「宇宙天気予報」を確立させるためにも、フレアの発生メカニズムの解明は重要です。